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2023.07.05

特集

日本遺産巡り#14◆「信長公のおもてなし」が息づく戦国城下町・岐阜

現代に息づく、おもてなし文化とは

岐阜城山麓居館の復元イメージCG 岐阜城山麓居館の復元イメージCG

「鳴かぬなら殺してしまえ時鳥」という有名な句から、織田信長に対し冷徹なイメージを抱いている方も少なくないかもしれません。しかし、正室とされる濃姫と天下統一を目指した岐阜の地では、「おもてなし」を大切にする信長公の意外な一面を垣間見ることができます。

今までになかった新しい切り口で戦国観光を紹介する「信長公のおもてなしが息づく戦国城下町・岐阜」は、日本遺産の認定が初めて行われた平成27年に認定されました。そんな岐阜の町に根付いたおもてなし文化を体感できる、信長公ゆかりの地をご紹介します。
信長公は意外にもおもてなし好きだった?

岐阜公園 岐阜公園

岐阜でまず訪れたいのが、金華山や長良川の自然に囲まれた岐阜公園。かつて、この場所には信長公が客人をもてなすために築いた館がありました。訪問者が最初に訪れたとされる山麓の館は、趣向を凝らした壮大なスケールの庭園群からなる迎賓館で、その美しさはポルトガルの宣教師ルイス・フロイスが「地上の楽園のようだった」と記したほど。

館の中では踊りや歌、食事の接待が行われました。信長公によるおもてなしは、まさに豪華そのもの。貴重な食材を遠方から取り寄せるのは当たり前、時には庭で飼っていた鳥をメインディッシュとして客人にふるまうこともありました。

また、通常は家臣が行う食事の世話も自ら行ったほか、食事の膳も自ら客人の席まで運ぶなど、冷徹なイメージとはかけ離れた、手厚い対応で相手を喜ばせるのが〝信長流のおもてなし〟でした。

岐阜城 岐阜城

防衛拠点として金華山(稲葉山)に造られた岐阜城。信長公は山上の城郭にも特別な客人を招き入れ、美濃・尾張両国や長良川を見渡す見事な眺望でもてなしたと伝えられます。

岐阜城天守閣から見た西側の景色 岐阜城天守閣から見た西側の景色

金華山や長良川の美しい自然、そして長良川を利用した水運によって栄えた戦国時代の城下町。見どころ満載の岐阜の町ですが、中でも濃尾平野を一望する天守からの大パノラマは、信長公自慢の風景でした。ここに招かれた京都の公家・山科言継(ときつぐ)は、その素晴らしい眺めに言葉を失ったといいます。
【岐阜公園へのアクセス】
電車 JR/名鉄「岐阜駅」からバスで15分、「岐阜公園・歴史博物館前」下車 徒歩1分。

岐阜公園 公式サイトはこちら

現代でも体験できる、信長流のおもてなし「鵜飼見物」

鵜匠と鵜 鵜匠と鵜

鵜を操って川魚を獲る鵜飼。市内中心部を流れる長良川では、1300年以上にわたってこの伝統的な漁法が受け継がれています。

信長公は「鵜匠」の名称を与えて鵜飼を保護するとともに、客人に鵜飼を見せることで接待の場としても活用しました。武田信玄の使者に対しては、豪華な船を用意して鵜飼観覧に招待しています。さらに、獲れた鮎は信長公自ら確認したうえで甲府に届けさせるほどの気の使いようでした。

岐阜公園からほど近い長良橋周辺では現在も、毎年5月11日から10月15日までの期間、観覧船での鵜飼観覧を体験することができ、「長良川鵜飼」には全国から観光客が訪れます。

NPO法人ORGAN理事長で、日本遺産「『信長公のおもてなし』が息づく戦国城下町・岐阜」体感ツアー造成事業受託事業者の蒲勇介さんは、岐阜を訪れる方に信長公の「おもてなしの文化」の魅力を伝えるため、他にはないテーマ性を持つ体験ツアーの企画・催行に取り組んでいます。

さまざまなプログラムの中でも注目を集めているのが、信長公が行っていた鵜飼観覧のおもてなしを再現したツアー。蒲さんに、この鵜飼観覧ツアーを企画した背景をお聞きしました。

NPO法人ORGAN理事長 蒲勇介さん NPO法人ORGAN理事長 蒲勇介さん

蒲さん:現代の岐阜観光においても、この地域にある「本物」をきちんと生かして、高付加価値な観光滞在を提供したいと思っております。岐阜市には1300年前から続いている長良川鵜飼がありますが、信長公は武田信玄公の遣いである秋山伯耆守(あきやまほうきのかみ)を鵜飼観覧に招待し、船でもてなしたと言われています。そういった歴史的背景から、信長公のおもてなしを船上で再現する長良川鵜飼舟遊びのツアーを始めました。

戦国時代の要素を随所に盛り込んだという本ツアー。笛と太鼓のお囃子の演奏とともに船が港を離れれば、まるで当時の宴席にタイムスリップしたかのような舟遊び体験の幕が上がります。戦国時代のお酒で杯を交わした後は、食事をしながら芸妓による舞と鵜飼を堪能。最後に信長公の好んだ幸若舞「敦盛」で宴が締めくくられるまで、信長公のおもてなしを追体験しているかのような気分が味わえる内容となっています。

戦国時代の船上の宴会の様子を再現 戦国時代の船上の宴会の様子を再現

蒲さん:日本遺産のストーリーや歴史的な背景をしっかりと伝えたいのはもちろんですが、単にお勉強のような内容にするのではなくて、何よりもその場を楽しんでいただきたいですね。お酒や料理、芸能で岐阜の文化を楽しんだ後、クライマックスとして鵜飼がある。このようなおもてなし自体がまさに信長公の時代から続く岐阜の遺産だと思うんです。

茶文化に精通し、戦国武将の美的感覚にも大きな影響を与えた信長公。岐阜城内で茶会を開き、客人をもてなすこともありました。また、信長公の実弟である織田有楽斎は、武家茶の流派「有楽流」の創始者として名の知られた茶人だったといいます。

体感ツアーの中には、この「有楽流」の宗匠、林大道先生による武家茶の作法や思想のレクチャーを受けながらお抹茶をいただけるプログラムも用意されています。信長公と茶の湯の関係性についても教えていただきました。

蒲さん

蒲さん:信長公をはじめとする戦国武将ゆかりの観光地は日本中にありますが、他の地域では味わえない、信長時代の息吹を感じられるのが岐阜ではないでしょうか。戦国時代から続くおもてなしの真髄や、岐阜でしか提供できない自然と一体となったおもてなしなど、信長公がお客様に対して行ったおもてなしと同じものが450年経った今も岐阜には残っています。ぜひ信長公のおもてなしの息吹を感じに来ていただきたいと思います。
現代も継承される城下町での「おもてなし文化」

川原町 川原町

岐阜市の中心部に位置する川原町は、長良川水運の力で、織田信長公の経済的な下支えをした湊町です。川の上流から運ばれてきた木材や和紙の流通が盛んに行われ、かつては多くの紙問屋や材木問屋が軒を連ねていました。今も、この地区には昔ながらの風情ある日本家屋が続く町並みが残されており、岐阜ならではのグルメが楽しめる飲食店やお土産屋さんが立ち並ぶ人気の散策エリアです。
川原町では、信長公が大切にした「おもてなし」の精神が色濃く根付いています。このエリアで和菓子処緑水庵を営み、協同組合岐阜市土産品協会代表理事も務める藤吉里美さんは、信長公のおもてなしを和菓子で表現した『おもてなし餅』を企画・開発し、新たな「おもてなし銘菓」として2023年2月から店頭販売を開始しました。

藤吉さんに、信長公をモチーフにした『おもてなし餅』を開発した時のことを振り返っていただきました。

協同組合岐阜市土産品協会代表理事 藤吉里美さん 協同組合岐阜市土産品協会代表理事 藤吉里美さん

藤吉さん:「おもてなし餅」は、柔らかいお餅に美濃加茂市の柿(蜂屋柿)と関市の柚を入れたお菓子です。干し柿のような弾力のある食感に仕立てています。開発にあたってまず、「信長公だったらどうするだろう」と考えました。その時、やはり「自分の持っているものを最大限に活かすのではないか」と思ったんです。だから、このお菓子にはうちが持っているものを最大限に取り入れています。また、持続可能性の観点から、美濃加茂の「堂上蜂屋柿」の規格に通らなかったものの、十分に美味しい柿を敢えて使用しています。「信長公が現代にいたならそうしていたのではないか」という、私なりの思いからそう決断したんです。
 
岐阜で商売をするにあたって、信長公の精神から影響を受けた部分も大きいと語ります。

藤吉さん:日本遺産のマークを付けるからには「いい加減なものを作ってはいけない」という思いもありましたし、何より信長公におもてなしされているような気持ちになれるようなお菓子にしたかったんです。信長公の「楽市楽座」をずっと聞いて育ってきているので、商売を大きくやるというよりも、地元に根付いたきちんとしたことを、みんなと一緒にやっていきたいという思いです。自分さえよければいいという仕事ではなくて、みんなとやっていくことが続けられるコツなのかなと思っています。それが、岐阜で商売をする上で、信長公から影響を受けた部分ですね。

岐阜に来られる方には、いろいろな角度で信長公を感じてほしいです。夏になったら鵜飼もあるし、金華山に登るもよし、川沿いを散歩するもよしと、信長公の街を、毎回違った信長の感じ方をして、友達の家に遊びに行くみたいに岐阜に何度も来てほしいですね。
【川原町へのアクセス】
電車 JR/名鉄「岐阜駅」から:バスで15分、「岐阜公園・歴史博物館前」下車 徒歩1分。
岐阜公園から:徒歩6分ほど

川原町 公式サイトはこちら

コラム

岐阜のまちづくりに貢献した信長公を称える「ぎふ信長まつり」
「ぎふ信長まつり」は、岐阜のまちづくりに大きく貢献した織田信長公を称えて毎年秋に開催される、岐阜市を代表するお祭りの一つです。

コロナ禍を経て、「岐阜市農業まつり」と共同開催という形で3年ぶりに開催された2022年の「岐阜市産業・農業祭~ぎふ信長まつり~」には、木村拓哉さん、伊藤英明さんが騎馬武者行列に登場。

映画のフラッグ

多くの観客が熱狂し、祭りはかつてない盛り上がりを見せました。この時の様子を写したフラッグはJR岐阜駅北口駅前広場デッキに掲示されています。(※令和6年3月末まで)

戦国時代から続く歴史や伝統を受け継ぐ、岐阜。美しい景色や町並みを楽しむだけでなく、信長公の残した文化やおもてなしを肌で体感してみてはいかがでしょうか。

岐阜市観光ナビ 岐阜市へのアクセスはこちら

【岐阜駅へのアクセス】
電車 「名古屋駅」から東海道線新快速でおよそ20分
飛行機 中部国際空港(セントレア)から名古屋鉄道特急でおよそ1時間
【本稿で紹介した構成文化財】 岐阜城跡
岐阜城復興天守
史跡岐阜城跡(織田信長居館跡)出土金箔飾り瓦
鵜飼
長良川中流域における岐阜の文化的景観
川原町のまちなみ

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