特集SPECIAL CONTENTS

2023.12.27

特集

日本遺産巡り#24◆政宗が育んだ“伊達”な文化

日本三景「松島」は信仰の中心地だった!?仙台藩伊達家ゆかりのスポットをめぐりながら神秘的な霊場としての一面を探る

松島 画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー

日本三景として有名な宮城県の「松島」。その景色の美しさはもちろん、仙台藩伊達家の菩提寺「瑞巌寺」が建てられていることから、仙台藩伊達家ゆかりの地としても有名です。

また、松島は、神聖な土地である「霊場」として信仰を受けてきた一面も持ち合わせています。中世の修行僧にとっては憧れの地でもあり、「奥州の霊場」と称されたほど。また、景観の美しさから多くの歌枕が詠まれた文化的な背景もあります。

仙台藩伊達家は、そうした古くから残る文化を保護しながらも、上方の影響を受けた新たな文化も取り入れることで、独自の「”伊達”な文化」を育んできました。

今回は、松島の持つ霊場としての一面に焦点を当てながら、仙台藩伊達家との深い関わりや、松島のまち並みに溶け込む伊達な文化を見ていきましょう。

松島に行ったら必ず訪れたい!神聖な雰囲気が漂う「雄島」

雄島(渡月橋) 雄島(渡月橋)

「渡月橋」と呼ばれる橋を渡った先にある「雄島」。南北に200mほど伸びる小さな島で、徒歩30分ほどで1周できます。雄島は、松島が「霊場」として有名となった由縁を知ることができるスポットです。

今野勝正さん 今野勝正さん

今回、雄島の観光ガイドをしている今野勝正さんに雄島が霊場とされた背景についてお話を伺いました。

今野さん:雄島の歴史は古く、一説では松島という地名にも関わっているとされています。平安末期に、高僧見仏上人(けんぶつしょうにん)が12年間修行した場所として、雄島は名を馳せることとなりました。見仏上人が、雄島で6万部の経典を声に出して読んだというエピソードを聞いた鳥羽天皇は、松の苗木を1000本送ったそうです。そうしたエピソードから現在の松島は「千松島」と呼ばれるようになりました。その後、時代とともに「千」の字が外れて、「松島」と呼ばれるようになったとも言われています。
 
今野さん:鎌倉時代の1285年には、頼賢(らいけん)という僧侶が雄島で修行しました。頼賢は、22年に及ぶ修行の期間中、島の外に出ることがなかったといいます。頼賢の功績を後世に語り継ぐため、彼の弟子たちはこの地に石碑を建てました。現在は、「奥州御島頼賢碑」と呼ばれ、国の重要文化財に指定されています。雄島は、そうした偉い僧侶たちが修行をする場所であったことから、霊場として信仰を受けるようになりました。その後、多くの人々が雄島に骨を埋めたり、死後、極楽浄土に行けるように願って建てる「板碑(いたび)」を建てたりするようになったんです。

頼賢碑を納める鞘堂 頼賢碑を納める鞘堂

雄島周辺の海底からは、3,000点近くの板碑や板碑の破片が発見されています。また、加工のしやすい凝灰岩の地質を活かして作られた島内の岩窟内には五輪塔や石仏が多くあり、現在でも霊場としての一面を垣間見ることができます。

岩窟 岩窟

島内には、歌碑も多く残され、歌枕の聖地であったことがわかります。かつての歌人は、多くの島々が織りなす松島の景色の美しさを極楽浄土と重ねていました。

そうした歌枕の地としての景観保護や、古典の調査研究事業なども積極的に行ったのが仙台藩伊達家です。また、江戸時代に松尾芭蕉が雄島を訪れ『おくのほそ道』を著したことにより、人々はさらに松島を目指すようになりました。

朝よさを 誰まつしまぞ 片心 (芭蕉)

雄島を訪れた芭蕉が、松島に心惹かれる想いを恋心に例えて詠んだ句です。芭蕉の50回忌に建てられたこの句が彫られた句碑は、現在でも見られます。

松島といえば、「松島や ああ松島や 松島や」が有名ですが、これは芭蕉が詠んだ句ではありません。一説によると芭蕉は、松島のあまりの美しさに満足に句が詠めなかったとされています。この句は、江戸時代に活躍した狂歌師の田原坊が、そんな芭蕉の様子を滑稽に表現した作品のようです。

歌碑 歌碑

句碑 句碑

今野さん:松島海岸駅から徒歩5分という、アクセスの良さも雄島の魅力の一つです。小さな島ですが100m歩いただけで、松島湾内に浮かぶ島の趣の異なる風景が楽しめますし、10月末頃になると紅葉が綺麗になりますよ。松島観光で雄島にいらっしゃる方はあまり多くありませんが、ボランティアガイドの説明も受けられますので、ぜひ一度いらしてみてください。

【雄島へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島浪打浜24
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約6分

雄島についてはこちら

松島の島々をめぐる遊覧船ツアーに参加

ここからは、松島町教育委員会教育課生涯学習班 主査(学芸員/社会教育主事)泉田成美さんにご案内いただきます。まずは、海から松島の景観が眺められる、松島遊覧船の魅力について伺いました。

松島町教育委員会教育課生涯学習班 主査(学芸員/社会教育主事)泉田成美さん 松島町教育委員会教育課生涯学習班 主査(学芸員/社会教育主事)泉田成美さん

泉田さん:遊覧船のコースには、松島湾を1周するものと、塩釜と松島間を周遊するものがあります。どちらも所要時間は1時間ほど。松島の遊覧船の魅力は、多くの島が浮かぶ海の景色を楽しめる点です。大きな船なので、デッキに出て、海風を感じてみてもいいかもしれません。晴れた日の景色が美しいのはもちろんのこと、雨の日の霞がかった景色も、水墨画のようで風情がありますよ。

泉田さん:かつて、仙台城周辺の地域から松島までの移動は、陸路よりも海路がメインでした。古文書には、歴代の仙台藩主が、家臣をひきつれて舟で隊列をなして松島に訪れていたという記録が残っています。追体験するように、塩釜から遊覧船で松島に訪れるのも一つの楽しみ方かもしれません。

千貫島(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 千貫島(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

湾内のさまざまな島のなかでも政宗と深い繋がりがあるとされているのが、「千貫島(せんがんじま)」。松島に船遊びにきていた伊達政宗は、千貫島の大きさや、形の美しさを気に入り、「あの島を館に運んだ者には、銭、千貫を授ける」と発言したことから「千貫島」の名前がつけられたとされています。
【松島島巡り観光船乗船券販売所(中央営業所)へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島町内98-1
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約6分

松島島巡り観光船の公式サイトはこちら

丸文松島汽船の公式サイトはこちら

政宗の築き上げた豪華な文化が見てとれる「瑞巌寺」

瑞巌寺本堂(画像提供:瑞巌寺) 瑞巌寺本堂(画像提供:瑞巌寺)

瑞巌寺は、仙台藩伊達家の菩提寺です。前身となる臨済宗の円福寺を伊達政宗が再興し、自身の菩提を弔う場所としました。

瑞巌寺本堂(画像提供:瑞巌寺) 瑞巌寺本堂(画像提供:瑞巌寺)

泉田さん:瑞巌寺には、仙台藩伊達家代々の位牌や肖像画などが納められてきました。瑞巌寺を訪れる際は、極彩色で緻密に描かれた襖絵や、細かな彫刻に注目してみてください。天井にも彫刻があったり、金具1つをとってもこだわっていたりと、細部まで楽しめます。
 
 

また、宝物館には、「木造伊達政宗倚像(もくぞうだてまさむねいぞう)」が展示されています。伊達政宗の姿は、さまざまな絵や像として残されていますが、その中でも瑞巌寺で見られるこの木像は、特に写実的だとされています。

 

もくだてまさむねいぞう 画像提供 瑞巌寺、撮影 井上久美子

泉田さん:伊達政宗倚像は、17回忌に正室愛姫(めごひめ)が作らせたものです。宝物館では、ガラス越しではあるものの、しっかりと近づいて見学できます。政宗は、眼帯の姿が有名ですが、木像は両目が見えており、片方の目が白濁しているのも特徴です。像の大きさは等身大くらいともいわれており、今にも動き出しそうな迫力があります。

【瑞巌寺へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島字町内91
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約10分

瑞巌寺の公式サイトはこちら

松島のシンボル「瑞巌寺五大堂」

松島湾の沿岸付近に行くと、瑞巌寺よりも5年ほど早くに政宗によって再建された「瑞巌寺五大堂」があります。

瑞巌寺五大堂(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 瑞巌寺五大堂(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

泉田さん:瑞巌寺五大堂は、坂上田村麻呂が807年に建てた毘沙門堂を政宗が1604年に再建したものです。政宗は、関ヶ原の合戦の前に、五大堂で戦勝祈願をしたとされており、その願いが無事に叶ったお礼として五大堂を再建したと言われています。

瑞巌寺五大堂(画像提供:瑞巌寺) 瑞巌寺五大堂(画像提供:瑞巌寺)

泉田さん:建物は一見すると、シンプルな白木で作られているように見えますが、よく見ると、色が塗られていた形跡を確認できる箇所もあるんです。また、屋根瓦には仙台藩伊達家の家紋が配されていたり、仏堂の周りを一周すると、十二支の細かい彫刻が見られたりするので、ぜひじっくりと見学してみてください。

【瑞巌寺五大堂へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島字町内111
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約7分

瑞巌寺五大堂についてはこちら

瑞巌寺と一緒に訪れたい!仙台藩伊達家ゆかりの霊廟
瑞巌寺の周囲には、仙台藩伊達家ゆかりの寺院が立ち並びます。

泉田さん:瑞巌寺に隣接している円通院は、政宗の孫にあたる光宗の霊廟です。19歳の若さで亡くなった光宗を弔うため、光宗の父にあたる2代目藩主の忠宗が建てました。霊廟の内部には、「”伊達”な文化」を象徴するような色鮮やかな絵が描かれているので、ぜひ見てみてください。現在の円通院では、紅葉やバラが美しい庭園も有名で、秋には紅葉ライトアップなどのイベントも開かれています。

円通院の紅葉の様子(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 円通院の紅葉の様子(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

【円通院へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県松島町松島字町内67
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約5分

円通院の公式サイトはこちら

泉田さん:瑞巌寺から松島海岸駅方面に歩くと、円通院の隣に天麟院があります。天麟院は、政宗の娘、五郎八姫(いろはひめ)の菩提寺です。敷地内の洞窟には2mほどとかなり大きな仙台藩伊達家の供養塔があります。天麟院は立地的に少し奥まった場所にあり、訪れる方は多くありませんが、ぜひ訪れてみてほしいです。

松島には、瑞巌寺をはじめ、霊廟など、仙台藩伊達家代々の先祖を祀る霊廟が多く建てられていることから、仙台藩伊達家との繋がりが強い場所だったことがわかります。

【天麟院へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島町内51
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約6分

天麟院についてはこちら

藩主の憩いの場所であった「観瀾亭」を訪れる

観瀾亭(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 観瀾亭(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

松島と仙台藩伊達家の関係は、観瀾亭でも伺い知ることができます。松島湾を見渡せる場所にある観瀾亭は、江戸時代、藩主がお月見をしたり、松島に訪れる藩の客人をもてなしたりする場所として使われていました。

現在は、県の有形文化財に指定され、一般開放されており、イベント開催の場や、景色を楽しむ休憩場所として使われています。
泉田さん:現在の観瀾亭は、2間しか残っていません。しかし、松島を訪れた藩主が滞在した場所ですので、かつては寝泊まりする寝室や台所など、さまざまな施設があったとされています。現在、2間あるうちの手前側のお部屋は、ゆったりと松島湾の景色を楽しめる空間になっていて、もう一つの奥の間には、障壁画の複製が展示されています。障壁画は、瑞巌寺や仙台城の障壁画を描いた狩野派の絵師たちによって描かれたものです。金箔が施され、極彩色で描かれた絵からは「”伊達”な文化」が感じ取れますね。
 
◆◆◆◆◆
【コラム】美しい松島湾を眺めながら抹茶とずんだ餅を堪能
観瀾亭は、かつて藩主の納涼やお月見に利用された風情のある空間。目の前に広がる穏やかな松島湾の風景を眺めながら、仙台名物のずんだ餅や抹茶が楽しめます。
 

観瀾亭からの景色(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 観瀾亭からの景色(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

抹茶とずんだ餅 抹茶とずんだ餅

観瀾亭に隣接する松島博物館では、松島町ゆかりの品々や、日本遺産構成文化財で伝統工芸品でもある仙台箪笥の展示も見ることができます。観瀾亭に訪れたら、ぜひ併せて足を運んでみてはいかがでしょうか。
 

松島博物館 松島博物館

仙台箪笥 仙台箪笥

【観瀾亭・松島博物館へのアクセス】
住所 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島町内56
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」から徒歩約6分

観瀾亭・松島博物館についてはこちら

◆◆◆◆◆

松島四大観の一つ「富山(とみやま)」から松島の全景を見渡す

富山は、観光客にはあまり知られていない、隠れたビュースポットです。江戸時代の終わり頃、仙台藩の儒学者が松島を何度も訪れ、眺望の良い場所を4ヶ所選んだのが「松島四大観」。松島湾を東西南北に囲うように配され、富山も松島四大観のうちの一つです。
 

富山からの景色(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー) 富山からの景色(画像提供:宮城デジタルフォトライブラリー)

泉田さん:富山は、四大観の中でも最も標高の高い場所です。落ち着いた雰囲気があり、手軽に秘境感が味わえる場所だと思います。新緑の季節は特に気持ちが良く、秋には紅葉の景色も楽しめますよ。
 
富山にも、「富山観音堂」という仙台藩伊達家ゆかりの建造物があります。元々、坂上田村麻呂が建立し、江戸時代に政宗の娘、五郎八姫(いろはひめ)が改修させたものです。五郎八姫が寄進した梵鐘は、県の文化財に指定されています。

【四大観 麗観 富山へのアクセス】
住所 〒981-0211 宮城県宮城郡松島町手樽三浦
アクセス JR仙石線「松島海岸駅」からタクシーで約15分

四大観 麗観 富山についてはこちら

日本遺産にまつわるお土産を買う

浦霞 酒ギャラリー 浦霞 酒ギャラリー

松島観光を終えたあとに、ぜひ立ち寄っていただきたいのが塩竈市にある「浦霞 酒ギャラリー」です。店内には、「きき酒用サーバー」が設置されており、宮城が誇る名酒「浦霞」の試飲や購入ができます。お店は、松島観光の拠点となる松島海岸駅から電車で10分、本塩釜駅から徒歩7分のほどの場所にあり好アクセスです。

全国的にも知名度の高い日本酒「浦霞」を醸造する蔵元佐浦家は、1724年に創業し、「鹽竈神社(しおがま)」に御神酒(おみき)を納めてきました。鹽竈神社は、1800年代から仙台藩伊達家が崇敬したことでも有名です。
 
浦霞は、県内で収穫される地元米の使用にこだわり、「品格のある酒」づくりを目指して造られたもの。米の旨味がほどよく感じられる味わいと、香りの高さが特徴です。店内では、地元でしか手に入らない浦霞製品や、オリジナルグッズなども購入できます。

【浦霞 酒ギャラリーへのアクセス】
 
住所 〒985-0052 宮城県塩竈市本町2-19
アクセス JR仙石線「本塩釜駅」から徒歩約7分

浦霞 酒ギャラリーの公式サイトはこちら

今回は、松島が霊場として信仰されてきた一面が分かるスポットや、仙台藩伊達家にゆかりの深い場所を中心に巡ってきました。ぜひ、今回紹介した情報をもとに現地を訪れ、松島の歴史的・文化的な奥深さを存分に味わってみてください。
【本稿で紹介した構成文化財】 木造伊達政宗倚像
瑞巌寺五大堂
瑞巌寺(本堂・庫裡及び廊下、障壁画)
圓通院霊屋
鹽竈神社
観瀾亭及び障壁画
雄島
松島
富山観音堂と梵鐘
仙台箪笥

ストーリーページはこちら

ページの先頭に戻る