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2023.09.11
特集
日本遺産巡り#18◆加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡 -人、技、心-
400年の歴史を誇る「ものづくりの魂」に触れる⾼岡まち歩き
高岡の町は慶長14年(1609年)、加賀前田家二代当主の前田利長が高岡城を築いたことに始まります。富山湾に面した高岡に、要害としての軍事的な機能と、水上・陸上交通を利用した経済的な可能性の双方を見出した利長は、築城と同時に城下町を整備。町の一角に資材の調達管理を行う拠点(木町)を設け、慶長16年(1611)には腕利きの鋳物師7⼈を呼び寄せ「鋳物師町(金屋町)」を作ります。
そこから始まるものづくり文化は、今でも高岡の町に息づいており「加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡 ─人、技、心─」として日本遺産に認定されています。
そこから始まるものづくり文化は、今でも高岡の町に息づいており「加賀前田家ゆかりの町民文化が花咲くまち高岡 ─人、技、心─」として日本遺産に認定されています。
築城から5年で前田利長は他界、高岡城も廃城に......三代利常の政策が高岡を変えた!
高岡の礎を築いた加賀前田家二代当主 利長を祀る菩提寺、瑞龍寺(国宝)
在城わずか5年で利長は他界、さらには江戸幕府の一国一城令により高岡城は廃城となってしまいます。城下町としての存在意義を失った高岡を立て直すため、三代当主の前田利常は、それまでの城下町から商工業の町へと転換させる政策を推し進め、それ以降高岡は、職人と商人の町として新たな一歩を踏み出すことになります。
職人と商人がタッグを組み、今日の高岡のものづくり文化を形成
金屋町に呼び寄せられた職人たちは、当初町人や農民に向けて、鍋や釜、鋤、鍬といった日用品や農具を作っていました。やがて高岡商人と協力して商品開発を進め、加賀藩の御用鋳物師たちをしのぐようになっていきます。
江戸中期、仏具師たちによって銅製品が進展してくると、鋳物師たちも銅器生産を開始。高岡商人は仏具師、鋳物師、彫金師などの異なる業種の職人を結び付け、多様なニーズに応えられる体制を作りました。そうして、鉄よりも複雑で繊細なかたちを表現できる銅の性質を活かした仏具や美術品が作られるようになり、海外への輸出にも乗り出します。この歴史が、今日に至るまでの「ものづくり文化」につながっています。
昭和 50 年には、伝統的⼯芸品として国の第一産地指定を受けた高岡銅器。今では、高岡の銅器は国内シェアの大部分を占めています。発祥から400 年以上経った現在は金、銀、アルミ、錫(すず)などのさまざまな素材を使った鋳物づくりが行われており、新たな魅⼒を生み出し続けています。
江戸中期、仏具師たちによって銅製品が進展してくると、鋳物師たちも銅器生産を開始。高岡商人は仏具師、鋳物師、彫金師などの異なる業種の職人を結び付け、多様なニーズに応えられる体制を作りました。そうして、鉄よりも複雑で繊細なかたちを表現できる銅の性質を活かした仏具や美術品が作られるようになり、海外への輸出にも乗り出します。この歴史が、今日に至るまでの「ものづくり文化」につながっています。
昭和 50 年には、伝統的⼯芸品として国の第一産地指定を受けた高岡銅器。今では、高岡の銅器は国内シェアの大部分を占めています。発祥から400 年以上経った現在は金、銀、アルミ、錫(すず)などのさまざまな素材を使った鋳物づくりが行われており、新たな魅⼒を生み出し続けています。
全国に高岡の鋳物の魅力を伝えた要所「伏木港」と北部地域の見どころスポット
高岡市北部には、北前船の中継地として栄えた伏木港や、加賀藩の年貢米を収める「御蔵」が置かれた吉久地区など高岡の経済発展を支えた地域が広がります。
高岡鋳物をはじめとした“ものづくり都市”と双璧をなす、“商業都市”としての高岡の一面を垣間見られる歴史的価値の高いスポットです。
高岡鋳物をはじめとした“ものづくり都市”と双璧をなす、“商業都市”としての高岡の一面を垣間見られる歴史的価値の高いスポットです。
伏木港
富山湾沿いに位置する伏木港は、加賀藩内の穀倉地帯で採れた年貢米を大坂・江戸へと送る物流拠点として整備されました。
18世紀以降は大坂と北海道を結ぶ北前船(バイ船)の寄港地にもなり、米や綿、肥料といった生活必需品の取引拠点として藩内で最も廻船が行き交う港となりました。こうして高岡は「加賀藩の台所」と呼ばれるほどの発展を遂げます。
伏木港からは銅器・鉄器などの鋳物製品も数多く出荷され、高岡の鋳造技術の高さを全国に広める上でも大きな役割を果たしました。
18世紀以降は大坂と北海道を結ぶ北前船(バイ船)の寄港地にもなり、米や綿、肥料といった生活必需品の取引拠点として藩内で最も廻船が行き交う港となりました。こうして高岡は「加賀藩の台所」と呼ばれるほどの発展を遂げます。
伏木港からは銅器・鉄器などの鋳物製品も数多く出荷され、高岡の鋳造技術の高さを全国に広める上でも大きな役割を果たしました。
【伏木富山港(海王丸パーク、富山新港臨海野鳥園)】
住所 | 高岡市射水市海王町8 |
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アクセス | 高岡駅から万葉線電車に乗車し、「海王丸駅」で下車(約40分)、駅から徒歩約10分。北陸新幹線富山駅から富山ぶりかにバスで約45分、「海王丸パーク」で下車。 |
吉久重要伝統的建造物群保存地区
伏木港の対岸に位置する吉久地区。加賀藩の年貢米を備蓄する「御蔵」が置かれ、砺波・射水平野で収穫された米を伏木港から北前船で大坂や江戸へ運搬するための流通拠点として栄えました。江戸後期から昭和30年代頃までの町家が残り、「さまのこ」と呼ばれる格子を設けた町家が建ち並びます。
【吉久重要伝統的建造物群保存地区】
住所 | 高岡市吉久二丁目・三丁目の各一部 |
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アクセス | 万葉線「新吉久」電停または「吉久」電停から徒歩5分 |
勝興寺
越中における浄土真宗の触頭(統制寺院)として機能した大規模な仏教寺院、雲龍山勝興寺。近世以降は加賀前田家や公家と関係を深め、門前にある寺内町の舟運業にも主要な役割を果たしました。
2021年3月に23年間にわたる修復工事が終了し、2022年12月には「本堂」、「大広間及び式台」が国宝に指定されました。他にも勝興寺にある10棟の建造物が国の重要文化財に指定されています。
【勝興寺】
住所 | 高岡市伏木古国府17番1号 |
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アクセス | 高岡駅から氷見線「伏木駅」下車、徒歩5分。 加越能バス伏木経由氷見行き・伏木循環・古府循環に乗車、「伏木駅」で下車し徒歩4分。 |
今も当時のおもかげが残る、高岡鋳物発祥の地「⾦屋町」
高岡市中心部から千保川を挟んだ対岸に位置する金屋町は、開町時に鋳物師たちの暮らした趣が今も町並みに残る伝統的建造物群保存地区です。数々の大火でも焼けずに残った保存地区には、銅片を埋め込んだ石畳の道や、千本格子の町家などが当時の面影をそのまま留めています。
ものづくりの歴史を学べる「鋳物資料館」
町内に建つ「高岡市鋳物資料館」では、原型(鋳型)をはじめとした鋳物の製作用具や、鋳造技術の変遷がわかる鋳物製品・古文書等を数多く展示。400年以上にわたる高岡鋳物の歴史を学ぶことができます。
町内に建つ「高岡市鋳物資料館」では、原型(鋳型)をはじめとした鋳物の製作用具や、鋳造技術の変遷がわかる鋳物製品・古文書等を数多く展示。400年以上にわたる高岡鋳物の歴史を学ぶことができます。
【高岡市鋳物資料館】
【高岡市鋳物資料館】
住所 | 高岡市金屋町1-5 |
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アクセス | JR高岡駅から徒歩約20分。 加越能バス「金屋」下車、徒歩約2分。 |
土蔵造りの町家、レンガ造りの洋風建築が残る「山町筋」
高岡の商人町として発展した山町筋は、歴史的な町並みが残る重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。明治33年(1900)の高岡大火による焼失後には、耐火性を高めた土蔵造りの町家が多く建てられました。
町内には、明治初頭に北海道との通商などで財を成した菅野家住宅(重要文化財)をはじめ歴史的な建物群が現存し、重要有形民俗文化財の高岡御車山が展示されている「高岡御車山会館」など、多くの見どころがあります。
【山町筋「土蔵造りの町並み」(重要伝統的建造物群保存地区)】
町内には、明治初頭に北海道との通商などで財を成した菅野家住宅(重要文化財)をはじめ歴史的な建物群が現存し、重要有形民俗文化財の高岡御車山が展示されている「高岡御車山会館」など、多くの見どころがあります。
【山町筋「土蔵造りの町並み」(重要伝統的建造物群保存地区)】
住所 | 高岡市御馬出町~小馬出町 |
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アクセス | あいの風とやま鉄道「高岡駅」から徒歩10分 (新高岡駅から高岡駅まではバスで約10分) |
その大きさに圧倒されること間違いなし!「高岡御車山会館」
高岡御⾞⼭は、加賀前田家初代当主前田利家が豊臣秀吉から拝領した御所車を、二代当主前田利長が受け継ぎ、高岡城築城に際して町民に与えたことが始まりと言われます。鉾を立てた特殊な形状の山車は、金工・漆工・染織等による見事な装飾が施され、かぶき者として語り継がれる利家像を彷彿とさせます。
毎年5月1日に開催される高岡御車山祭では、7基の御車山が高岡旧市街を巡行。豪華絢爛な御車山が一堂に会する様子は圧巻です。高岡御車山祭の御車山行事は、国の重要無形民俗文化財及びユネスコ無形文化遺産に登録されています。
【高岡御車山会館】
住所 | 高岡市守山町47-1 |
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アクセス | 高岡駅から徒歩12分 |
⽇本遺産を感じながら、ものづくり体験・⼯場⾒学を!
ものづくりの町 高岡では、市内の随所で鋳物や漆器をはじめとした伝統工芸の技に触れることができます。完成品を鑑賞、購入するだけでなく、製作過程の見学や実際の製作体験を通してものづくりに参加できるのも高岡の大きな魅力です。
世界初!錫100%の鋳物製品を開発した「能作」
大正5年 (1916)創業の鋳物メーカー「能作」は、伝統的な鋳造技術を受け継ぐかたわら、世界初となる錫100%の鋳物製品を開発。現在は国内外に直営店を持つ企業へと成長しています。
伝統を守りつつ進化させ、次世代的なものづくりへと拡げていく能作の取り組みについて、代表取締役 会長の能作克治さんにお話を伺いました。
伝統を守りつつ進化させ、次世代的なものづくりへと拡げていく能作の取り組みについて、代表取締役 会長の能作克治さんにお話を伺いました。
能作さん:高岡はご存知のように、加賀前田家二代当主の前田利長によって開かれた町です。当初は荒れ地で産業らしい産業もなく、利長が鋳物師を招いて保護したことで、この地に鋳物づくりが根付きました。能作もその流れを汲む鋳物屋の一つとして、私の前の代(三代目)までは仏具や茶道具、花瓶等を中心に製作していました。
伝統技術を生かした鋳物製作を続けてきた能作ですが、ある時、「食器は作れないか」という声を参考に、純錫製のテーブルウェアを考案します。
能作さん:錫100%の鋳物は、当時、日本はもとより世界にも存在しませんでした。しかし、錫は融点(溶ける温度)が低く、加工しやすい金属です。柔らかすぎることがデメリットと言われていましたが、自由に形を変えられる点をメリットと捉え直すことで〝唯一無二の形状を楽しむ食器〟という新しい価値が生まれ、それが受け入れられました。
能作さん:錫100%の鋳物は、当時、日本はもとより世界にも存在しませんでした。しかし、錫は融点(溶ける温度)が低く、加工しやすい金属です。柔らかすぎることがデメリットと言われていましたが、自由に形を変えられる点をメリットと捉え直すことで〝唯一無二の形状を楽しむ食器〟という新しい価値が生まれ、それが受け入れられました。
各種メディアでの紹介も追い風となり、曲がる「KAGOシリーズ」は能作の人気商品に。
誰もしたことのないことをしたいという進取の気性が生んだ、老舗の鋳物メーカーのチャレンジと飛躍について、能作会長はこう続けます。
能作さん:伝統産業や伝統工芸では、昔からのやり方を忠実に守ることが重視されがちです。しかし、受け継がれてきた技術と知識を使い、その時代に求められているものを作ることも、ものづくりには必要だと考えています。伝統を守りながら、自身の代でも新たに伝統を作っていく。伝統文化に関わる人間にとって、それもまた大切な仕事ではないでしょうか。
誰もしたことのないことをしたいという進取の気性が生んだ、老舗の鋳物メーカーのチャレンジと飛躍について、能作会長はこう続けます。
能作さん:伝統産業や伝統工芸では、昔からのやり方を忠実に守ることが重視されがちです。しかし、受け継がれてきた技術と知識を使い、その時代に求められているものを作ることも、ものづくりには必要だと考えています。伝統を守りながら、自身の代でも新たに伝統を作っていく。伝統文化に関わる人間にとって、それもまた大切な仕事ではないでしょうか。
◆
2017年に新社屋が完成した能作では、工場見学や鋳物製作体験、地元食材を錫食器で楽しめるカフェの運営を通して、観光客や地元の子どもたちに高岡鋳物の魅力を発信しています。子ども時代に能作の工場を見学した若者が職人となって入社するなど世代循環にも繋がっており、伝統的なものづくりを継承・発展させる象徴になっています。
工場見学では、ガイドの方が鋳物を作る工程に沿って詳しく解説をしてくれます。実際に作業をしている職人たちの姿も見ることができる、貴重な体験です(事前予約制)。
砂を押し固めて鋳型を造型する「生型鋳造法」で、ぐいのみや小皿、箸置などの錫製品を製作できます(事前予約制)。
【株式会社 能作 本社工場】
【株式会社 能作 本社工場】
住所 | 高岡市オフィスパーク8-1 |
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アクセス | 新高岡駅から加越能バスに乗車(約13分)、「能作前」にて下車。 |
自分だけのオリジナル小物を作る!高岡でものづくり体験・⼯場⾒学ができるスポット
他にも高岡市内には、鋳物や漆器、螺鈿細工といった伝統工芸品の製作を体験できるスポットが数多くあります。卓上小物・アクセサリー類などの身近で使い勝手の良い品物が揃い、高岡旅行の記念やお土産にもおすすめです。旅の思い出に自分だけのオリジナル小物やアクセサリーを製作してみてはいかがでしょうか。
大寺幸八郎商店(体験)
おしゃれな鋳物製品の販売に加えアクセサリー作り体験ができる、大寺幸八郎商店。イヤリングやピアス、ネックレス(ひも付き)、指輪、キーホルダー、ヘアアクセサリー、ブレスレットなど、錫を使ったオリジナルアクセサリーを製作できます。店舗の奥は趣のある雰囲気のカフェスペースになっており、まち歩きの休憩にうってつけ。
【大寺幸八郎商店】
住所 | 高岡市金屋町6-9 |
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アクセス | あいの風とやま鉄道「高岡駅」から徒歩20分。 あいの風とやま鉄道「高岡駅」からバス「金屋」下車、徒歩1分。 |
鋳物 利三郎(見学・体験)
鋳物 利三郎では、砂型に自分の好きな絵や模様などを描いた錫鋳物を製作できます。風鈴やぐい呑み、箸置き、小皿、ペーパーウェイトなど、実際に製作できる鋳物の種類も豊富。高岡観光の思い出に、自分好みの小物を作ってみては。
【鋳物工房利三郎】
住所 | 高岡市金屋町8-11 |
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アクセス | あいの風とやま鉄道「高岡駅」から徒歩約20分。 あいの風とやま鉄道「高岡駅」からバス「金屋」下車、徒歩約2分。 |
高岡地域地場産業センター「ZIBA」(体験)
高岡駅近くにある高岡地域地場産業センター「ZIBA」では、市内のあらゆる伝統工芸品(高岡銅器・漆器など)を一堂に展示・販売しています。数ある工芸品の中から、お気に入りの作品を見つけるのも楽しみ方の一つ。新しい発見があるかも。センター内にある産業資料館(無料)では、高岡ものづくりの歴史や製造方法の違いも展示しています。
また、既存の型を使った鋳物のぐいのみやミニ水盤づくりだけでなく、漆器の絵付け体験もできます。団体にも対応する大きな体験スペースも併設。
また、既存の型を使った鋳物のぐいのみやミニ水盤づくりだけでなく、漆器の絵付け体験もできます。団体にも対応する大きな体験スペースも併設。
【高岡地域地場産業センター「ZIBA(ジーバ)」】
住所 | 高岡市御旅屋町101 御旅屋セリオ2階 |
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アクセス | 高岡駅から徒歩6分 |
歴史に想いを馳せながら、ここでしかできないものづくり体験を!
高岡銅器、高岡漆器をはじめとした伝統工芸は、職人たちが繊細なデザインと高い技術を大切に守り、今に受け継いでいます。古い町並みと文化を守りつつ、時代に合わせて変化を続けるものづくりの町、高岡。伝統と新しさの融合が魅力的な高岡のものづくりに触れる旅へと出かけてみてはいかがでしょうか。
【本稿で紹介した構成文化財】 | 瑞龍寺 高岡御車山 (高岡御車山会館) 高岡御車山祭の御車山行事 山町筋重要伝統的建造物群保存地区 金屋町重要伝統的建造物群保存地区 銅造阿弥陀如来坐像 高岡鋳物の製作用具及び製品(鋳物資料館) 勝興寺 伏木港(伏木浦) 吉久重要伝統的建造物群保存地区 |
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