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2024.03.18

特集

日本遺産巡り#30◆『珠玉と歩む物語』小松 ~時の流れの中で磨き上げた石の文化~

あなたもきっと〝石〟に魅了される!
小松の石文化を五感で楽しむ旅

観音下石切り場

石川県小松市は、2,000万年前の活発な火山活動により、豊富な「石の資源」に恵まれた地域です。それらの資源を活かし、弥生時代には、権力者がこぞって求めたというアクセサリー類をはじめとするモノづくりが盛んに行われてきました。高度な石の加工技術は現代にも引き継がれ、モノづくりのDNAが根付いています。石とともに歩んできた小松の歴史、現代に受け継がれるモノづくりの精神を街の中で感じ取ることができるのが、小松の魅力です。

今回は、そんな小松の石文化を「五感で体感する」巡り方を紹介します。
小松の石文化の歴史
「現代でも再現不可能」な高度な技術力が弥生時代にあった!?

碧玉製管玉の首飾り

小松の石文化、モノづくりのルーツは弥生時代にまで遡ります。当時、良質な「碧玉(へきぎょく)」の産地だった小松では、碧玉製の「管玉(くだたま)」を使用したアクセサリーが作られました。弥生時代には既に、現代でも再現が難しいと言われるほど高度な加工技術が使われていたのです。
その後も、切り出した石材を古墳や城の建築に使用したり、「ジャパンクタニ」と呼ばれ海外でも人気を博す九谷焼を作ったりと、さまざまなモノづくりが行われてきました。近代では、金平金山や尾小屋鉱山で採れる金や銅などの鉱石が、小松の経済の発展に寄与。現在でも小松の石材は重宝されており、市内の観音下(かながそ)石材は、国会議事堂や甲子園会館などの建築物に使われていることで有名です。
最初に立ち寄りたい!
小松駅の新施設「Komatsu 九」
2024年3月16日(土)に北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸したことで、小松駅にも新幹線が停車するようになりました。それに伴い、小松駅内もリニューアル。2023年9月には、カフェ、ショップ、コワーキングスペース、観光案内所、ギャラリー&イベントエリアを備えた観光交流センター「Komatsu 九(コマツナイン)」がオープンしました。

「Komatsu 九」の立ち上げに携わった、小松市交流推進部 文化振興課 担当課長の下濱貴子さんに同施設を紹介してもらいました。

小松市交流推進部 文化振興課の下濱貴子さん 小松市交流推進部 文化振興課の下濱貴子さん

下濱さん:Komatsu 九は、人とモノづくりの交流をテーマとした施設です。ギャラリーでは、2,300年の長い歴史がある小松の石文化が時代を越えて栄えてきた様子を、みなさんに体感していただけるような展示を行っています。

石の文化の展示をするギャラリー 石の文化の展示をするギャラリー

小松駅の東側一帯には、小松のモノづくりの原点である「八日市地方(ようかいちじかた)遺跡」が広がっています。ここは、弥生時代中期には濠(ほり)で囲まれた大きな集落だったそう。現在でも発掘調査が続けられていると言います。

下濱さん:実は、小松駅自体が遺跡の中に建てられているんです。しかもその中で、出土品を展示しているのは、全国的に見ても珍しいことだと思います。「遺跡の紹介」となると、難しそうなイメージを抱く方もいるかと思いますが、Komatsu九では、土器をおしゃれに展示するなど、見せ方を工夫して多くの方に楽しんでいただけるようにしています。県外から訪れた方はもちろん、市内の方からも「小松にこんなものがあったなんて!」と驚きの声が聞かれますね。

お土産ショップ「小松土産店(とさんてん)」では、九谷焼など石文化を象徴するお土産が購入できます。併設されている観光案内所は、小松駅を拠点とした観光プランを立てるのに最適です。

小松土産店 小松土産店

観光案内所 観光案内所

【Komatsu九へのアクセス】
アクセス JR小松駅直結
小松空港から小松駅行きリムジンバスで約12分
住所 〒923-0921
石川県小松市 土居原町13番地18

Komatsu九についてはこちら

「五感」を使って石文化を味わい尽くす

Komatsu 九で石文化の歴史を学んだら、小松市内にある石文化を体感できるスポットを巡ってみましょう。
【視】大自然と石文化の共存に圧巻!「那谷寺」

奇岩遊仙境 奇岩遊仙境

「那谷寺(なたでら)」は、奈良時代(717年)に創建されたと言われ、1,300年以上の歴史を持つ古刹です。霊峰白山を崇拝する自然信仰の場として、僧が修行を行ってきました。そんな那谷寺では、長い年月をかけて形成された石の美しい景観が楽しめます。

那谷寺の住職である木崎馨雄さんは、那谷寺の自然の美しさについて次のように語ってくれました。

那谷寺の住職 木崎馨雄さん 那谷寺の住職 木崎馨雄さん

木崎さん:那谷寺はとても古いお寺で、山の神様をお祀りしています。江戸時代に前田利常が、「自然を感じられる場所」として那谷寺を整備しました。入り口から続く参道も、利常が整備したものです。以前は門がなく、小松城の近くまで並木道がずっと続いていたそうです。参道の美しい自然は、1日として同じ景色がありません。苔や落ち葉、木漏れ日が入る様子など、季節と時間帯によって変化する自然の美しさを感じることができます。

参道から見える美しい自然の風景 参道から見える美しい自然の風景

木崎さん:那谷寺は、他のお寺に比べてお堂が小さいんです。あくまでも「自然が主役、お堂は脇役」という考えがあったようですね。境内には、山や池、滝、美しい花などの自然が多くあり、それらを活かして極楽浄土を思わせる風景を作ったとされています。紅葉の時期は真っ赤な絨毯が広がり、雪が降ると、白と黒だけの山水画のような世界観が見られ、自然の美しさを体感いただけます。自然と一体となった仏の世界から、日本の美しさを感じてみてください。
 

那谷寺がこの地にできたのは、地理的な要因が大きいと言います。那谷寺の心臓部ともいえる奇岩遊仙境は、人が手を加えたものではなく自然にできたものです。
 

奇岩遊仙境の洞穴 奇岩遊仙境の洞穴

木崎さん:奇岩遊仙境は、火山の造山活動によってできた岩山が隆起し、長い間の浸食によってできたものです。古代の人は珍しい造形や自然の美しさから、これを神が作ったものだと考えて自然信仰の対象としたのでしょう。那谷寺の境内にたくさんある洞穴で、僧が修行をしていました。

庫裏庭園 庫裏庭園

那谷寺の周辺地域では、メノウやアメジストなどの宝石類が多く出土しました。特別拝観エリアにある庫裏庭園の庭石や飛び石には碧玉やメノウ、水晶など地元の宝石類の原石が今でも確認できます。

三尊石 三尊石

庭園の奥の池に佇むのは、岩壁が三つに裂けた岩山。岩壁の様子が、真ん中の如来とそれを守るための二つの仏さまが立つ阿弥陀三尊の様子と似ていることから「三尊石」と名付けられました。三尊石は、かつて岩山の上に川があり、岩壁に二連の滝が流れてできたとされる地形です。古代の人は岩壁が三つに裂けた阿弥陀三尊のような地形が自然の中に偶然表れたことを不思議がり、信仰の対象としたと考えられています。

【那谷寺へのアクセス】
アクセス 小松駅から車で約30分
住所 〒923-0336 石川県小松市那谷町ユ122

那谷寺についてはこちら

【視】小松城の石垣からわかる、美しい切り石の積み上げ技術

小松城本丸櫓台石垣 小松城本丸櫓台石垣

小松城は、加賀一向一揆の拠点城として建てられたお城。加賀前田家三代の利常が、小松城を隠居の地として定め、1639年に大規模改修を行いました。城自体は明治期に取り壊され、堀が埋め立てられて現在は住宅地となっていますが、残されている石垣からは当時の面影が感じられます。

「切込み接ぎ」により美しく積まれた石垣 「切込み接ぎ」により美しく積まれた石垣

本丸櫓台石垣の上からの景色 本丸櫓台石垣の上からの景色。遠くに白山連峰が望める。

小松城の本丸櫓台(ほんまるやぐらだい)石垣は、「切込み接ぎ(はぎ)」と呼ばれる最新の工技で、切石が隙間なく積み上げられています。見た目の美しさを考慮し、あえて色味の異なる石を積んだとされています。

【小松城本丸櫓台石垣へのアクセス】
アクセス 小松駅から市内循環バス乗車、
「市役所前」から徒歩約10分
住所 〒923-0903 
石川県小松市丸内町ニノ丸15

小松城本丸櫓台石垣についてはこちら

【聴】「滝ヶ原石切り場」

荒谷商店(本山石切丁場) 荒谷商店(本山石切丁場)

小松の石材が全国の建築物に使用されるようになると、石を切り出す「石切り場」が市内各地に開かれました。江戸時代から多くの石切り場が点在した地域が滝ヶ原町です。

「本山石切丁場」は、現在でも稼働している唯一の石切り場。そこで石切職人として活動する荒谷商店5代目の荒谷雄己さんに、滝ヶ原石の特徴について伺いました。

荒谷商店5代目の荒谷雄己さん 荒谷商店5代目の荒谷雄己さん

荒谷さん:滝ヶ原石は、凝灰岩で軟石に分類されます。滝ヶ原石は火山が噴火した火山灰の堆積でできているため、水に強く、加工しやすいのが特徴です。軟石ではありますが、同時に丈夫な石でもあり、住宅の壁や床などにもよく用いられているんですよ。雨が多い北陸地域で採れる石だからこそ、雨風に晒されても劣化しにくく、この辺りの神社の灯篭や鳥居、墓石などにも昔から使われています。

採石を進めている様子 採石を進めている様子

切り出した石材をスライスする様子 切り出した石材をスライスする様子

滝ヶ原にはかつて何十人もの石切職人がいましたが、現在では荒谷さんと、もう一人の職人さんだけだそう。荒谷さんは小松の石文化を紡いできた先代の人たちへの感謝を忘れず、滝ヶ原石の伝統を、しっかりと後世へ受け継ぎたいと語ります。

荒谷さん:今後にこの文化を繋ぎ、滝ヶ原石の魅力を皆さんに知ってもらうため、先代まで取り組めていなかったSNSの発信などにも力を入れています。ただ、お客様には納得して滝ヶ原石を使っていただきたいので、ぜひ石切り場に来て、切り出しから加工までの様子を見ていただきたいとも思っているんです。そうすれば、滝ヶ原石の本当の魅力、付加価値を感じてもらえると思います。
 

小松市が毎年開催しているイベント「GEMBA(ゲンバ)モノヅクリエキスポ」では、滝ヶ原石切り場の見学プログラムに参加できます。実際に作業をする現場では、石切り場でしか聞けない「音」を楽しめるのも魅力の一つです。

荒谷さん:石切り場には、石を切り出す作業で使う機械音、ハンマーで石を起こす際の音など、「ここでしか聴くことのできない音」があります。石を起こす時は、最初は「カンカン」と高い音が鳴り、段々と石にヒビが入ると「ズンズン」と低い音になっていきます。また、石切り場は奥に行けば行くほど、外の音が聞こえなくなるんです。そうした独特な静けさも石切り場でしか味わえない体験だと思いますよ。

iShiKiの滝ヶ原アロマストーン iShiKiの滝ヶ原アロマストーン

近年は、石材の加工時に出る端材をアップサイクルする取り組みもしていると言います。

荒谷さん:以前から加工時に出る石の端材を、できれば捨てたくないと思っていました。そこで、数年前から染料を中心とした商品開発を行う会社さんとタッグを組み、石材を使ったアロマストーンを作り始めたんです。滝ヶ原石の水を吸いやすい特徴を利用して、天然由来のアロマを染み込ませています。とても良い香りがしますよ。


 
荒谷商店から車で3分ほどの場所には、アーチ状の石橋があります。力学の知恵を使い、石を積み上げるだけで完成させる石橋は、現代にはほとんど残っていません。滝ヶ原エリアは、こうしたアーチ状の石橋が5つも現存している、全国的にも珍しい場所です。橋の真ん中にある「要石(かなめいし)」が橋全体を支える石橋は丈夫で、現在でも生活道路として使用されているものもあります。

かつて石切り場が多くあった滝ヶ原エリアでは、以前稼働していた石切り場がそのまま残されている場所もあります。のどかな風景に突然現れる、荘厳な石切り場は、まさに小松ならではの風景です。

滝ヶ原アーチ石橋群(東口橋) 滝ヶ原アーチ石橋群(東口橋)

滝ヶ原エリアでかつて使用されていた石切り場 滝ヶ原エリアでかつて使用されていた石切り場

【荒谷商店へのアクセス】
住所 〒923-0335 
石川県小松市滝ヶ原町二-143番地

荒谷商店についてはこちら

iShiKiアロマストーンについてはこちら

【触】石の素材に触れる!
九谷焼づくり「九谷セラミック・ラボラトリー」

小松市花坂地区で発見された良質な花坂陶石を使用した九谷焼は、明治期に「ジャパンクタニ」と呼ばれ、欧米でも賞賛される有名な焼き物です。

九谷セラミック・ラボラトリーは、作品展示ギャラリーや体験工房、製土工場などを兼ね備えた、まさに九谷焼に触れられる施設。60年以上に渡って磁器土を製造する製土工場が施設内で稼働しており、花坂陶石を粉砕し、陶土ができあがるまでの工程も見学できます。
ギャラリーには、有名作家さんから若手作家さんまでの九谷焼の作品が飾られており、そのまま購入することもできます。施設内にある体験工房では、ろくろでの器づくり体験、絵付け体験にも参加可能です(10名以上の団体の場合要予約)。
【九谷セラミック・ラボラトリーへのアクセス】
アクセス 小松駅からタクシーで約10分
住所 〒923-0832
石川県小松市若杉町ア91番地

九谷セラミック・ラボラトリーについてはこちら

【触】採掘当時の面影に触れる「尾小屋鉱山マインロード」

かつて、日本有数の銅の生産量を誇った、尾小屋鉱山。尾小屋鉱山資料館では、小松市の豊富な資源と鉱山によって発展した小松の歴史を知ることができます。資料展示の他にも、旧坑道を利用した展示施設「尾小屋鉱山マインロード」の見学も可能です。全長600m(現在の公開範囲は全長200mのみ)のマインロード内では、原寸大のジオラマで作業風景が分かりやすく展示されています。

尾小屋鉱山マインロード 尾小屋鉱山マインロード

原寸大のジオラマ 原寸大のジオラマ

マインロード内の気温は、通年13〜15度ほど。ひんやりとした空気感で、夏場に訪れると涼しく感じられます。閉じられた空間は、まさに異空間。手軽に冒険気分が味わえるのも魅力です。マインロード内でトロッコが稼働するイベントも不定期で行われており、当時の面影を肌で感じられるスポットの一つです。

【尾小屋鉱山資料館へのアクセス】
アクセス 小松駅から車で約30分
住所 〒923-0172
石川県小松市尾小屋町カ1-1

尾小屋鉱山資料館についてはこちら

【味・嗅】石文化が根付く小松ならではのお土産を味わう

小松の石文化を堪能した後に、お土産品として購入したいのが、長池彩華堂が作るお菓子「小松の宝石 ishika」。鮮やかな色合いが可愛らしい、天然果汁を使用した琥珀糖菓子です。「小松や小松の石文化の魅力を伝えたい」という想いで開発されたishikaは、一粒一粒がメノウや勾玉などの石の形をしています。小松駅直結の施設Komatsu九の小松土産店でも取り扱いがある他、同施設内のカフェ「UNI COFFEE ROASTERY」で、ishikaをちりばめたドリンクを楽しむこともできます。
 

お酒がお好きな方へのお土産には、小松の地酒「神泉(しんせん)」がおすすめです。造り手である東酒造(ひがししゅぞう)は、1860年創業の老舗の造り酒屋。石川県産の原料にこだわり、水は白山の伏流水、地元の酒米と酵母を使用しています。

神泉の大吟醸は、初代前政府専用機で飲まれたもので、お土産として人気があります。お米の甘みがギュッと詰まった大吟醸は、フルーティーな味わいで、口の中で旨味が広がります。金沢酵母を使った辛口で、味わいのバランスが良いため、食中酒としても楽しめます。

東酒造では他にも、フランスの日本酒コンテストで受賞経験があるお酒「神泉 純米吟醸 BLUE LABEL」なども取り揃えており、店内での試飲も可能です。

店内の試飲スペース 店内の試飲スペース

東酒造では、地元の観音下石を積んだ「石蔵」で酒造りや酒の保管が行われています。石蔵は、冬は暖かく夏は涼しいため、酒造りに適した温度管理ができます。平成21年には国の登録有形文化財に指定され、時期によっては、石蔵の見学も可能です(要予約)。

東酒造の入り口と石蔵(左) 東酒造の入り口と石蔵(左)

道具蔵の側面には龍と虎が彫られている 道具蔵の側面には龍と虎が彫られている

【東酒造へのアクセス】
アクセス JR能美根上駅からタクシーで約5分、
明峰駅から徒歩で約20分
住所 〒923-0033 
石川県小松市野田町丁35

東酒造についてはこちら

長い歴史の中で紡がれてきた、小松と石の物語。自然の景色や建築物、焼き物など、石をさまざまな角度から楽しめ、石の魅力に気付かされます。ぜひ、現地を訪れ、そこでしか味わえない石文化を体感してみてください。
【本稿で紹介した構成文化財】 観音下石切り場 
八日市地方遺跡出土品
那谷寺(本堂ほか5棟) 
那谷寺庫裏庭園 
小松城本丸櫓台石垣 
滝ヶ原石切り場 
滝ヶ原アーチ石橋群 
九谷焼製土場(谷口製土場ほか) 
尾小屋鉱山 
東酒造

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