特集SPECIAL CONTENTS

2024.05.20

特集

日本遺産巡り#34◆未来を拓いた「一本の水路」 -大久保利通“最期の夢”と開拓者の軌跡 郡山・猪苗代-

猪苗代湖から郡山市まで続く一本の水路を辿る旅│猪苗代湖を水源にした水路が東北の大都市を形成!

安積開拓をモチーフにしたモニュメント 安積開拓をモチーフにしたモニュメント

東北地方でも有数の大都市として知られる、福島県郡山市。古くから「安積(あさか)」と呼ばれるこの地域は、お米や野菜、果物といった豊富な農作物の産地としても知られています。

しかし、明治期までは不毛の地として、農作物の生産に適していない地域だったことをご存知でしょうか。現在の豊富な自然の恵みを享受できるようになったのは、猪苗代湖を水源とする「一本の水路」のおかげでした。

明治時代、官民が一体となり本格化していった安積開拓・安積疏水開さく事業によって整備された水路(安積疏水)は、安積地域の環境を大きく変え、都市の発展に大きく寄与しました。平成28年には「未来を拓いた『一本の水路』-大久保利通“最期の夢”と開拓者の軌跡 郡山・猪苗代-」として日本遺産に認定されています。

郡山市国際政策課 主査 伊藤総一郎さん 郡山市国際政策課 主査 伊藤総一郎さん

今回は、郡山市国際政策課 主査 伊藤総一郎さんに現地をご案内いただきながら、猪苗代湖から水路の終着点である郡山市内までの見どころを辿りました。
【猪苗代湖エリア】水路のはじまりは〝西の天空〟猪苗代湖

猪苗代湖 猪苗代湖

猪苗代湖は103km2と広大な面積を誇り、日本で4番目に大きい湖です。標高514mに広がる透明度の高い水面は、空を映し出す鏡のような美しさを誇ります。この猪苗代湖が、安積原野を潤す水路のスタート地点です。

伊藤さん:この猪苗代湖から、標高差を利用した自然流下によって水を郡山市内まで運んでいます。明治15年に安積疏水が通水してから、現在まで維持管理しているという歴史もあり、JICA(国際協力機構)から灌漑施設の視察も来ています。視察受け入れについては、日本遺産ストーリーを紹介しながら、安積疏水関連施設の講義と現地見学を行いました。世界的にも、開拓におけるお手本的な存在になっています。猪苗代湖や水路の存在、そしてかつて開拓を行った人々の功績は、今でも私たちの誇りです。

取水口で使用されていたポンプ 取水口で使用されていたポンプ

伊藤さん:現在は水路のルートが変わっていますが、安積疏水の旧ポンプ場跡地が水路のスタート地点でした。ここから郡山市内まで続く水路によって、農業ができる地になり、郡山(安積)が栄えていきます。まずは、この場所にできた新たな観光施設「Roots LAKE AREA」に行ってみましょう。

猪苗代エリアの観光拠点に最適!Roots LAKE AREA

観光施設「Roots LAKE AREA」 観光施設「Roots LAKE AREA」

旧安積疏水関連施設をリノベーションし、令和5年4月にオープンした観光施設「Roots LAKE AREA」。猪苗代湖に隣接する最高のロケーションで、地元の食材を使用した食事やBBQ、湖畔でのサウナやグランピングが楽しめます。レンタサイクルも用意されているため、猪苗代湖散策の拠点としてもうってつけです。

株式会社Roots 取締役 長谷川 達人さんに、Roots LAKE AREAと猪苗代湖への想いや楽しみ方について伺いました。

株式会社Roots 取締役 長谷川 達人さん 株式会社Roots 取締役 長谷川 達人さん

長谷川さん:私たちは、30年ほど前から猪苗代町で工務店を営んでいます。2015年に、家を売るだけの工務店ではなく、お客さまの暮らしに密着する工務店を目指そうと「幸せな暮らしを作る」という想いを掲げ新たな仲間たちと共に再スタートしました。たくさんの方の協力のおかげで、Rootsの取り組みは、猪苗代町役場から公益性と集客性を認められ、廃校になった旧山潟小学校を使って人を呼び込む「地域貢献事業 人の駅構想計画」に参画することになりました。イベントの開催、お店の運営、農業・観光業に繋がる取り組みを行い、年間3〜4万人ほどが集まるようになりましたが、もっと人を呼びたいと思っていたところ、長らく使われていなかったこの場所を活用する機会を頂きました。

アウトドアグッズ等販売スペース アウトドアグッズ等販売スペース

BBQエリア BBQエリア

長谷川さん:この場所で何をするかを皆で考えた時、やはり「体験」をテーマにした空間にしようと決めました。体験の創造を通して、自然環境、地域社会との絆を深めることをモットーに、さまざまなサービスを組み立てていきました。元々ログハウス作りから始まった工務店だったこと、メンバーにアウトドア好きが多かったことから「外での遊び」に強みがあったので、サウナ、グランピング、バーベキューができる施設の制作に至りました。ここに来てくれた人が体験を通して、猪苗代町、猪苗代湖、そして福島県全体の魅力を少しでも感じ、この地域に愛着を持ってほしいと考えています。

グランピング施設 グランピング施設

サウナ施設 サウナ施設

長谷川さん:この地域には、安積疏水に思い入れがある方が多く住んでいます。「安積疏水のおかげで田んぼができた」と感謝をしているようで、当時の写真を大切に持っている方もいますね。猪苗代湖の魅力は、年間を通じてさまざまなレジャーを楽しめるということ。それぞれの浜で趣が違いますし、四季折々で表情の異なる磐梯山も望めます。本格的にアクティビティをしたい方から、小さなお子さんのいるご家族まで、それぞれの楽しみ方ができるのがこの地域の魅力だと思います。ぜひ、ご自身の好きなポイントを見つけてみてください。

【Roots LAKE AREA】
住所 福島県耶麻郡猪苗代町山潟湊志田191 Roots猪苗代
アクセス 郡山駅から車で約40分

Roots LAKE AREA情報はこちら

再生可能エネルギーの先駆け!
明治32年から今でも稼働する水力発電所「沼上発電所」

沼上発電所 沼上発電所

続いて伊藤さんが案内してくれたのが、明治32年から現在まで稼働する「沼上発電所」。猪苗代湖からの標高差を利用して水力発電を行っています。この発電所のおかげで、郡山の紡績や繊維産業が発展していきました。

当時としては最先端であった水力発電所の歴史、発電方法などについて、東京電力リニューアブルパワー株式会社 猪苗代事業所 総括グループ 渡部 照義さんにお話を伺いました。

東京電力リニューアブルパワー株式会社 猪苗代事業所 総括グループ 渡部 照義さん 東京電力リニューアブルパワー株式会社 猪苗代事業所 総括グループ 渡部 照義さん

渡部さん:安積疏水の完成によって、この場所にたくさんの水が流れるようになりました。明治32年、紡績会社が生産量を増やすために機械を導入します。それを動かすための動力として電気が必要となり、「この水を使えないか」と作られたのが沼上発電所です。当時の最先端の技術を使い、300kWの発電を行い23kmほど先の郡山市内まで送電していました。当時は火力発電が主流でしたが、水力発電は燃料を使わないため、安く電気を供給できました。
 

水圧鉄管 水圧鉄管。長さ65m、高低差が37mほど。 ※見学は柵外からであれば自由です。特別に許可をいただき柵内より撮影しています。

渡部さん:水車発電機が納まっている今の建物は、昭和61年に建設されたものです。安積疏水の水を使わせていただいて発電をしているため、水が止まっている期間には発電を行いません。発電に使う水は最大で毎秒およそ8m3で、水圧鉄管を通した水を水車にあて回転させ、水車と軸で繋がる発電機を回転させることで発電を行います。水車を回し終えた水はすべて河川に戻すので、水を消費することのない「再生可能エネルギー」です。沼上発電所の最大出力は約2,100kWにより、一般家庭で3kW利用すると考えるとおよそ700軒分を賄えます。今でも、下流の竹之内発電所を経由して郡山市内に送電をしています。沼上発電所は景色の良い場所にあるため、春は桜、夏は新緑、秋は紅葉と季節ごとに綺麗な景色も楽しめます。当時の建物はありませんが、この発電所が郡山市の発展や、技術の先駆けとなった歴史を知って訪れていただくと一層楽しめると思います。沼上発電所の仕組みや歴史を、もっと知りたい方は、ぜひTEPCO公式YouTubeをご覧ください。
【沼上発電所】
住所 郡山市熱海町安子島固後利山3-1
アクセス 郡山駅から車で約30分

【郡山市街エリア】
水路がもたらした郡山発展の象徴「開成山公園」

開成山公園 開成山公園

郡山市内にある開成山公園は、安積開拓の象徴的な存在。敷地内には1,300本もの染井吉野があり、明治11年頃に植樹され構成文化財になっている「日本最古の染井吉野」も見ることができます。

日本最古の染井吉野 日本最古の染井吉野

伊藤さん:ここは、通年さまざまなイベントが開催されており、地元の方からも愛されている場所です。公園内には、安積疏水の水の流れをイメージしたモニュメントや安積開拓の偉業を讃える開拓者の群像があります。そして、ぜひ見ていただきたいのが「日本最古の染井吉野」。桜が満開になる頃には、地元の方を含め、多くの方がお花見に訪れます。ぜひ、その季節にも訪れてほしいですね。
【開成山公園】
住所 福島県郡山市開成1-5
アクセス 郡山駅から車で約10分

郡山市Webサイトはこちら

開拓民たちの心の拠り所、東北のお伊勢さま「開成山大神宮」

開成山公園のすぐ近くには、「東北のお伊勢さま」として親しまれている開成山大神宮があります。明治8年に本殿と拝殿が造営され、翌年に皇室の御祖神である天照大御神の御分霊が奉遷されました。宮司を務める宮本 孝さんに、開拓者の歴史と由緒について伺いました。

開成山大神宮 宮司 宮本 孝さん 開成山大神宮 宮司 宮本 孝さん

宮本さん:開成山大神宮は、「開拓があったからこそできた神社」です。明治期、さまざまな場所から生活に困った開拓者たちがこの地を訪れましたが、慣れない場所で慣れない仕事に従事するという不安があったようです。その方たちの心を落ち着かせる、楽しみを作る、心を一つにする目的で各地に神社が作られましたが、開成山大神宮はその中でも大きな象徴的な存在です。もちろん、神様に対する信心深さもあったと思いますが、当時はこの場所で「お祭り」を行うことが主たる目的だったようです。お祭りの後の「直会(なおらい)」、つまり宴会でお酒を飲むことで、人とのつながりを深めていく場になっていきました。

青森檜葉で造営された拝殿 青森檜葉で造営された拝殿

開成山大神宮の御神宝「太刀 勝光(たち かつみつ)」と「槍 銘 国綱(やり めい くにつな)」が収められている宝物殿 開成山大神宮の御神宝「太刀 勝光(たち かつみつ)」と「槍 銘 国綱(やり めい くにつな)」が収められている宝物殿

宮本さん:明治8年、建物の建造が始まりますが、その時にはお祀りする神様が決まっていませんでした。最初は、日本最初の天皇である神武天皇がお祀りされましたが、さらにその祖先神である天照大御神をお祀りできないかとお願いをしました。明治天皇の東北御巡幸のコースに郡山が入っていたこと、先遣隊として大久保利通がその前年にやって来て開拓の可能性を知ったことが大きかったようですが、それが認められ、翌明治9年に御分霊を遷されて以降、天照大御神、豊受大神、神倭伊波禮彦命(神武天皇)を御祭神としています。これは全国的に見ても例がないことで、これが「東北のお伊勢さま」と呼ばれている理由です。

本殿の横にある桑野宮。 本殿の横にある桑野宮。三神の荒魂(あらみたま)を祀っている。

宮本さん:郡山は元々、宿場町として栄えていた地域もありましたが、安積疏水の恵みによって農業と工業も栄えていき、さらに発展していきました。水不足から水を貯めておくため池が多く作られていたこともあり、鯉の養殖も盛んになります。郡山の魅力の一つは、お米や野菜、果物などの農業生産物が豊かで美味しいことです。そして、かつて開拓者の方々がそうだったように、さまざまな場所から人が移って来ても楽しく生活ができる場所でもあります。やはり、今の郡山は疏水の完成が大きな転換点だったと思います。
【開成山大神宮】
住所 福島県郡山市開成3-1-38
アクセス 郡山駅から車で約10分

開成山大神宮公式サイトはこちら

「安積疏水麓山の飛瀑」と書かれた石銘板 「安積疏水麓山の飛瀑」と書かれた石銘板

最後に訪れたのが、郡山市内まで水路が繋がっていたことを象徴する「安積疏水麓山の飛瀑」。堤長14m、堤高8m、水路延長23mの人工の滝で、過去の改修により大半が埋められてしまっていましたが、平成3年に復元されました。

安積疏水麓山の飛瀑 安積疏水麓山の飛瀑

伊藤さん:当時の方たちは、この滝を見ながらお酒を飲んで楽しんでいたようです。当時の右大臣だった岩倉具視が「開拓のための水を鑑賞用に使うとは何事か」と怒ったそうですが、実はこの滝から水力発電を行うところまでを想定していたのではないかという説もあります。当時の方たちの発想に驚かされます。
【安積疏水麓山の飛瀑(麓山公園)】
住所 福島県郡山市麓山1-347
アクセス 郡山駅から車で約5分
※駐車場は、麓山地区公共施設駐車場をご利用ください。

郡山市Webサイトはこちら

「一本の水路」がもたらした恵みを堪能する

最後に、安積疏水がもたらした自然の恵みを堪能できるスポットやお土産品について、伊藤さんにご紹介いただきました。ここまで紹介した地を巡りながら、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
新鮮な郡山ブランド野菜を堪能できる「Best Table」

郡山ブランド野菜を使った料理が楽しめるお店「Best Table」の入り口 郡山ブランド野菜を使った料理が楽しめるお店「Best Table」の入り口

「Best Table」のキッチン 「Best Table」のキッチン

伊藤さん:Best Tableは、郡山独自の特産品として誇れる野菜を育んでいきたいという思いから生まれた「郡山ブランド野菜」を使った料理が楽しめるお店です。どの料理も美味しいですが、特におすすめなのが「郡山産米粉を使った生麺のフォー」と「朝採れ野菜のサラダプレート」。猪苗代湖からの水で育まれた農作物の美味しさを感じていただけると思います。メニューが週替わりなので、その時々の旬の野菜を味わえるのも魅力ですね。

「郡山産米粉を使った生麺のフォー」 「郡山産米粉を使った生麺のフォー」

「朝採れ野菜のサラダプレート」 「朝採れ野菜のサラダプレート」

【Best Table】
住所 福島県郡山市朝日1-14-1
アクセス 郡山駅から車で約10分

Best Tableのインスタグラムはこちら

厳格な生産基準をクリアした、どこよりも安全で美味しい最高級のお米!
「ASAKAMAI 887」

ASAKAMAI 887 ASAKAMAI 887

伊藤さん:米作りには88の手間がかかるといわれています。そして7つの厳格な生産基準をクリアした「あさか舞」コシヒカリのみが、この最高級米の名を冠することができます。名称は、この88の手間と7つの基準を表しています。

販売場所などの詳細はこちら

郡山の鯉カレー~KOI CURRY~

KOI CURRY パッページ KOI CURRY パッページ

KOI CURRY イメージ画像 KOI CURRY イメージ画像

伊藤さん:ため池が多く、紡績業が盛んであったことから、蚕を餌にした鯉の養殖も行われてきました。郡山市は鯉の生産量が全国市町村別1位になっています。鯉の料理としては「鯉の洗い」「甘露煮」などが有名ですが、お土産におすすめしたいのが「郡山の鯉カレー~KOI CURRY~」。鯉に親しみを持ってもらうために、一般社団法人ご当地レトルトカレー協会と有限会社廣瀬養鯉場がタッグを組み開発したものです。インパクトがあって面白い商品なので、お土産に最適だと思います。

販売場所などの詳細はこちら

郡山のおすすめお土産・観光スポット!
帰りに立ち寄りたいふくしま逢瀬ワイナリー

ふくしま逢瀬ワイナリー 外観 ふくしま逢瀬ワイナリー 外観

ふくしま逢瀬ワイナリー 店舗 ふくしま逢瀬ワイナリー 店舗

ふくしま逢瀬ワイナリー 工場 ふくしま逢瀬ワイナリー 工場

伊藤さん:ふくしま逢瀬ワイナリーは、福島県の特産品である果物の6次産業化に向けて2015年にオープンしました。併設のショップ内にはワイナリーで醸造したワインやシードル、リキュールだけでなく、お酒にぴったりのおつまみや福島県内のこだわりの逸品も取り扱っています。また、店内ではアルコールのカップ販売や、一部無料試飲、カフェメニューなども楽しめるので、ぜひ旅の途中でお立ち寄りください。

【ふくしま逢瀬ワイナリー】
住所 福島県郡山市逢瀬町多田野字郷士郷士2
アクセス 郡山駅から車で約30分

ふくしま逢瀬ワイナリーの公式サイトはこちら

ふくしま逢瀬ワイナリーのインスタグラムはこちら

明和2年(1765年)創業!笹の川酒造

左)特別純米酒「安積野」 右)チェリーウイスキー「安積野」 ※一本の水路ブランド認証産品:特別純米酒「安積野」(左)、チェリーウイスキー「安積野」(右) 

伊藤さん:笹の川酒造では、日本酒や焼酎を製造しているほか、東北最古の地ウイスキー蒸留所「安積蒸留所」も併設しており、酒蔵や蒸留所、貯蔵庫などの酒造りの歴史を学びながら、施設見学することもできます(要予約)。敷地内ショップでは商品の販売も行っております。製造までのストーリーを学んでから、味わうお酒は格別です。
※日本遺産「一本の水路」ブランド認証産品の詳細は以下のとおり

郡山市Webサイトはこちら

【笹の川酒造】
住所 福島県郡山市笹川1-178
アクセス 郡山駅から車で約15分

笹の川酒造の公式サイトはこちら

人々にさまざまな自然の恵みをもたらしている、猪苗代湖と安積疏水。改めて歴史を学んで観光をしてみると、きっと違った感動が味わえるはずです。この地域への旅行は、家族で学びながら楽しむ、楽しみながら学ぶ場所としても最適です。ぜひ、ご家族で一本の水路を辿る旅を計画してみてはいかがでしょうか。
【本稿で紹介した構成文化財】 猪苗代湖
沼上発電所
開成山公園
安積疏水麓山の飛瀑
開成山大神宮

ページの先頭に戻る